図書館で会いましょう
誠司の家の前で足を止める。どうやって入ろうか、由美はなかなか良い考えが思いつかない。あれから一年も経つ。逃げた自分への背徳感が体の動きを奪う。
『どうしよう…』
家の門の前で何もせず立っていると、
「あら…」
声がする。振り向くとそこには誠司の母親が立っていた。
「あ…」
由美は慌ててお辞儀をする。
「…ご無沙汰してます…」
消えそうな小さな声で辛うじて絞り出した。由美の突然の訪問に誠司の母親はしばらく複雑な表情を見せる。少しの沈黙のあと、誠司の母親は微笑み、由美の肩を軽くたたいた。
「さ、こんなところで暗い顔をしてるのもあれだから、入って入って。」
由美の手を取り、門を開いた。その表情は誠司が生きているときのものと変わらない。由美は覚悟を決めた。
「あの…」
「ん?どうしたの?」
お互いに足を止める。
「まずは…線香をあげさせてもらって良いですか…?」
一瞬、誠司の母親の表情が曇る。ただ、少しして笑顔で由美を見つめた。
「いいわよ。じゃ、入って。」
由美は軽く礼をし、家の中に入った。


居間の仏壇の前に座る。誠司があの頃と変わらない微笑みが向けられていた。由美はその笑顔をじっと見つめていた。線香を立て、瞳を閉じ、そっと手を合わせる。
『ごめんね…』
由美は心の中でそっと呟いた。後で誠司の母親が座っていた。由美は誠司の母親の視線を気にせず、ずっと手を合わせていた。
「もう一年経つのね。」
誠司の母親が呟いた。その声で由美は瞳を開く。
「どうしたの…急に?」
おそらく、誠司の母親が一番聞きたかったことだろう。由美は誠司を見つめながら口を開いた。
「ごめんなさい…」
由美の口から出てきたのは謝罪の言葉だった。思いがけない言葉だったのだろう、誠司の母親は少し慌てた。
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