図書館で会いましょう
「あの日、最初は意識なかったんだけど…あなたが来る少し前に意識が戻ったの…」

病院のベッドの上で誠司が少し目を開ける。その瞬間、誠司の父親と母親が駆け寄った。
「誠司!」
「誠司!」
ベッドの周りでは変わらず医者と看護婦が走り回っている。父親と母親の声で病室の外にいた真理子と浩平も病室に入ってきた。
「誠司!」
「誠司くん!由美ももうすぐ来るよ!」
父親や母親、浩平の声では目が虚ろだったが、「由美」という真理子の声に反応した。
「由美…」
誠司が呟く。
「由美かぁ…会いたいな…」
「バカ!今すぐ会えるよ!」
浩平が叫ぶ。母親は誠司の手を握り、祈るように目を瞑る。
「由美…」
誠司がもう一度呟く。そして顔を母親に向けた。
「由美なら母さんとうまくやってけるんだろうな…」
「そうだね、あの子はあんたにはもったいないぐらいよ。」
母親は必死で笑顔を作った。
「母さん…由美に…幸せにできなくってごめんって…」

語るとともに誠司の母親の目から涙が流れていた。
「あら、やだ…」
母親は指で涙を拭う。
「改めて…由美さん。誠司の最後の言葉を聞きたい?聞くか聞かないかはあなたに任せます。正直、聞いても聞かなくてもあなたがどうなるのか、私にはわからない。あなたを不幸にするかもしれない。どうします?」
真剣な眼差しで由美の目を見つめる。由美は目をそらさず、
「今日、それを聞きに来ました。」
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