ふたつの指輪
お店であたしに何もしようとしなかったことも。



むしろ、ああいうお店や職業を心底嫌ってるようだったことも。



あたしにあんなに、バイトに行くなって言ったのも……


もちろんあたしがママに言われてイヤイヤ行ってたからっていうのが主な理由だろうけど、このこともあったんだ。



……梨恵さんのことがあったから。




(そ……か)


ビール缶片手にくつろいでる尊さんの、少し伏せた物憂げな目を盗み見ながら。



あたし、どこか勘違いしてたことに気付いた。




あたしのこと、ちょっとくらいはかわいく思ってくれてるんじゃないかって。


だから、こんなに気にしてくれるんじゃないかって。



――とんだうぬぼれ。


尊さんは、あたしの向こうに梨恵さんを見てただけなんだ。

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