ふたつの指輪
あたしは、ママの言動に振り回され続けながらも、ママの愛情がほしくてあえいでた、傷ついた小さな子どもだった。

子どもの頃は、ママが絶対だったから。

ママがあたしの世界のすべてだったから。


あたしの中身は、今でも傷ついた子どものままだったんだ。


――小さな、傷ついた、ひとりの子ども。


あたしの中の小さな子どもはひとりでずっと泣いていた。

初めて今、あたしはこの小さな子どもに気づいて、抱きしめてあげられたんだ――


思わず涙があふれて、目からぽろりと落ちた。



「……んなこと、謝んな」



尊さんの黒い瞳があたしをじっと見返して。


あたしたちはしばらく、時が止まったみたいに、見つめ合ってた。




ふと、あたしの頬にあたたかい手が掛けられて。


整った顔が近づいた。



(え……?)



黒い瞳が、すぅっと伏せられた瞼に隠れた。

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