ふたつの指輪
「おまえさ」

「あ、はいッ」


緊張して、なぜか「はい」なんて返事しちゃった。


「男に、働いてる店に遊びに来いとか言われてないか?」


「――え?」



何をいきなり……


あたしは首を横に振った。


「ううん、言われてない」

「何だ、そうか」


尊さんは、何だか拍子抜けしたように小さくうなずくと、それきり黙り込んで、ビールをぐびっと飲んだ。



「……なんでそんなこと聞くの?」

「……言われてなかった別にいい」

「言われてたら何なの?」

「……」


尊さんは無言で、頭痛でもするかのように、こめかみを指で押さえた。
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