ふたつの指輪
「別に、あたしを好きなフリなんかしなくてもよかったのに。

そんなまわりくどいことしなくても」


最初からあたし、完全に魁人くんのとりこだったんだから。

魁人くんがあの喫茶店のドアをくぐった、その時から。



――きれいな、残酷な、魁人くん。



「それか、最初から、フーゾク行って働け、でもよかったのに」

「……何言ってんだよ」

「それなら、何も、期待しなくて済んだのに」

「瞳衣……おまえ……」


「こんなに、好きにならずに済んだのに」



「……よせよ、もう。

面倒くせーな」



魁人くんは、ふっとあたしから顔をそむけた。




あたしは、くどくどと、何度も同じことを繰り返してた。


「どうして、さっさとここに連れてきて、さっさとフーゾクに売り飛ばしてくれなかったの?

それなら、恨むだけで済んだのに」
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