ふたつの指輪
現実の体温をともなった、存在感のある腕。


髪をなでる、あたたかい手。



「うそ、信じられない――」


昨夜から、初めて、生きた心地がした。



涙に濡れた顔をあげると。


尊さんは端正な顔を皮肉げにゆがめて、片頬でフッと笑いかけた。



「相変わらず、世話の焼けるやつだ。

――帰るぞ。着替えろ」


「え、でも、あの」


「事情はわかってる。

あいつの店で派手に使わされて、ここでバイトして返せってことになったんだろ」

「……え?どうしてそれを……?」

「いいからここを出るぞ」



相変わらず性急な人。

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