ふたつの指輪
「さすがに大学はお金がないからあきらめた。


就職もね、実は決まってたんだけど、この不況で会社が倒産しちゃって、今白紙状態」



「……なるほどな」



眉間に深いしわを寄せて。


その人はそれきり黙りこくってしまった。





髪が乱れかかる、その浅黒い端正な横顔を盗み見ながら。


あたしは、おずおずと言った。



「あの……ありがとうございました」

「……何が」


ぶっきらぼうな声。


「延長入れてもらって」


じゃないと、もう一人お客の相手しなきゃいけないところだった。

今度こそ、想像するにもおぞましいことをしなきゃいけなかっただろうし。


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