ふたつの指輪
ささやくように言いながら、肩にぎゅっとしがみつく。

まるであたしがこの世に自分をつなぎとめる楔であるかのように。


離したら、そのままどこかに流されてしまうかのように。



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この数日間でいろんな話をしたのに。

魁人くんは、過去のことを一切話したがらなかった。


15歳で家出するまでに、おうちで何があったのか。

家出してから何をしてたのか。


「思い出したくもねぇし」

そう言って、いつも口を閉ざす。


(あの時のことは忘れろよ)


多分魁人くんも、嫌なことは忘れよう、忘れようとしてきたんだろうなって思う。

魁人がその記憶にすら触れたくない過去は、いったいどれくらいあるんだろう。


話して楽になるなら、聞いてあげたい。

――というよりも、あたしは知りたかった。


どんなひどいことだって、話してほしかった。何もかも。

だけど、聞いても「その話はやめろよ」の一点張りで、魁人くんは何一つ話そうとしない。
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