ふたつの指輪
魁人くんは、そんなあたしをぎゅっと抱きしめる。


耳元で、小さくささやかれた細い声。



「ごめんな、オレで」



(え――?)



「何言ってるの?」



「ほんとはおまえ、オレなんかといるような女じゃないんだ」

「オレなんかと、って……

そんなわけ……」

「わかってた。

わかってたけど――」


それ以降の言葉は、合わさった唇の中に消える。




「ねえ、魁人くん。

自分を悪い人に仕立てあげてしまわないで」


(オレみたいに、社会の底辺の暗闇でごそごそ手探りで生きてるようなアウトサイダーじゃなくてだな)

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