ふたつの指輪
「あの……どうして……ここへ?」

「そうせっつくな、ちょっと待ってろ」



ほんのりとただようコーヒーの香り。


……コーヒーを淹れようとしてる?



そっとソファを立ってキッチンを覗くと、2つ並んだおそろいのマグカップの1つにドリッパーが置いてあった。



(あたしの分まで、淹れようとしてくれたんだ)


何だかちょっぴりうれしくなる。



「あの、あたしが淹れましょうか……?」

「……」


尊さんの切れ長の目にギロリと睨まれて、カエルのように身をすくめながら。

あたしは何とか言葉を続けた。


「ほら、あたし、喫茶店で働いてるから。

マスターにコーヒーのおいしい淹れ方は教わってるし」
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