ふたつの指輪
「それは取っとけ」

「だめです!

あたし何もしてないし、ただもらうわけにはいかないもん」

「強がるなよ、金要るんだろ」

「それとこれとは話が別です!

そんなのあたしの気がすまない」


「……」


意地で言い張るあたしを、シャープな顎をさすりながらじっと見ていた黒い目が。


ふと、すぅっと優しげに細くなった。

片方の口の端が、少しだけ持ち上がる。


「わかったよ。

んじゃ、これは返してもらっとく」


テーブルの上の1万円札を、人差し指でくいっと自分の方に寄せた。

皮肉げに、フッと笑う。



……そんな仕草がいちいち絵になる。




「あの……どうして……あたしをここへ?」


そんなニヒルな笑みにちょっぴり見とれながら。


あたしは、勇気を出して聞いた。

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