ふたつの指輪
「ちょっと、いくらなんでもそれはひど……」

「心配なら、電話でも入れとけ。友達んち泊まるってな」


あたしの反論を容赦なくさえぎる。


「……」


あたしは何だか腹が立ってきた。


「ねぇ、ちょっと待ってよ。

今日お店でのことは感謝してるけど。

あたしにそんなこと指図する権利があなたにあるの?

あなたにあたしたちの何がわかるっていうのよ!

ママは、自分の人生すり減らして、あたしを育ててくれたのに……」


ついつい口調が険しくなる。



「……」


尊さんは、伏せていた黒い瞳をあげて、あたしを無言でじっと見た。



やがて、小さくため息をついた。



「権利じゃなくて、これは義務だ。


俺だって、面倒なことははっきりいってごめんだ。

だけど、知っちまったからには見て見ぬふりはできねぇだろ。


ちょっと言い方がきつかったかもしれないのは謝る。

……今は受け容れられないかもしれないけど、いつか、俺の言ってることがわかる日が来るから。


……だから、今は黙って、言うとおりにしろ」
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