ふたつの指輪
「3、40分くらいだな。……いや、単に付き添いだ。

……細かいことは今聞くな。

……わかった。今から向かうから。

そうだな……」


腕時計に目をやる。


「15分くらいで着く。助かるよ。

……さ、行くぞ。シートベルトしろ」


最後の言葉はあたしに向かって掛けられた。



「……どこ行くの?」

「おまえん家。

制服とか着替えとか、要るもの取ってこい」


尊さん、本当にあたしをあの家から引き離す気なんだ。


あの家と、ママから。




お父さんに捨てられて、一人で一生懸命働いてあたしを育ててくれた、かわいそうなママ。

自分の人生を犠牲にして。

ママを一人置いて、あの家を出るなんて……



――あたし、ひどい親不孝者じゃない?
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