ふたつの指輪
「ねぇ、あたし、あの家出ても行くところもないし、たとえ服を……」

「それはまた後で考えればいい」


また、あたしの言葉の上からかぶせて、有無を言わさない強い口調で言う。


「ちょっと、勝手に決めないでよッ」

「行くぞ、さっさとシートベルトしろ」

「……」


無言で抗議しながら、あたしはシートベルトを伸ばした。


車がスタートする。




助手席でむくれて黙り込むあたしに、ふと穏やかな口調で尊さんは言った。


「俺が、ひどいヤツだと思ってるか?

”自分を守ってくれた大事なお母さん”をひどく扱う、ひどいヤツだって」


「……」


あたしは目をそらして窓の外を見た。


冬の街が後ろに飛ぶように流れていく。



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