ふたつの指輪
「言っとくが、そこは否定してるわけじゃない。

おまえの母さんの苦労は相当なもんだったろうことは、俺にも容易に察しがつく。

そして、おまえもな」


「……」


「昨夜も言ったけど、今は、おまえはお母さんと距離をおくべきだ。

そうすれば、きっと見えてくることがある。


なかなか理解できないのもわかるけどな、ここはいったん……」


ふと言葉を切って、尊さんは車を止めると、運転席の窓を開けた。



窓の外に誰かいる。



「……尊、久し振りね」

「梨恵」

「突然呼び出したりして、一体何の騒ぎ?」


どこか寂しげに微笑む白い顔が窓から車の中を覗き込んだ。

くるくるとカールした茶色い髪にふちどられた、小さな整った顔。


尊さんより、ちょっと年上かな?
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