ふたつの指輪
梨恵と呼ばれたその人は、車の中を覗き込むと同時に、助手席のあたしに気付いて、一瞬ギョッとして小さく息を吸い込んだ。


「悪りィな、後ろに乗ってくれ」

「……」


梨恵さんは、黙って後部座席のドアを開けて乗り込んだ。


車はすぐにスタートする。



「……で、あたしに何しろって?」


梨恵さんの口調はちょっぴり険しかった。



……多分、あたしのせいだ。


助手席に乗るんじゃなかった。

尊さんも、言ってくれればいいのに。



……あたしはいたたまれなくなって、思わずうつ向く。



「この子が自宅で荷造りする間、ついていてやってくれ」

「……ふぅん」


興味なさげな声。
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