ふたつの指輪
「あ、あそこの細い道を入ってすぐがあたしん家」


あたしは見慣れた道を指差した。


「じゃ、この辺に駐めとくから。行ってこい」

「……はい」


尊さんが後部座席にちらりと眼をやると、梨恵さんは無言で車から降りた。


二人で肩を並べてすたすた歩く。


実際は梨恵さんの方がだいぶ背が高かったけど。



おんぼろなアパートの階段を上がりながら、梨恵さんは小声で言った。


「あなた、尊の何?」

「何……って?」

「付き合ってるの?」


あたしはドアの鍵を回しながら答えた。


「あたし、ちゃんと彼氏がいますから」

「……そう」

「尊さんと知り合ったのも、昨日なんです」

「……なぁんだ。そうなんだ」


拍子抜けしたようにうなずく梨恵さん。
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