ふたつの指輪
(ママは……?)


暗い部屋の隅で、布団がこんもり盛り上がってる。

布団の周りに、脱いだ服がだらしなく散らかってた。


(寝てる……)


失業して、仕事が見つからないうちに、だんだん無気力になっていったママ。

その怒りの矛先はあたしに向いてるのを感じてた。


(あたしが悪いんじゃないのに)


あたしはいつもそんな理不尽な思いを抱えながら、何も言えなかった。


でも、しょうがないよね。

こんな境遇だもん。

こんなご時世だもん。


ママが悪いんじゃない。


ママはもともとこうじゃなかった。

はつらつとして、バリバリ働いて。いつも元気だった。

――お父さんがいなくてもよかった。

自慢の、大事なママがいたから。


あたしは音をできるだけ立てないようにして、制服や普段着やら、携帯の充電器やら、あらゆる必需品をせっせとカバンに詰めた。


学校のカバンはあっという間にパンパンになって。


昔部活で使ってた大きなカバンも動員して、次々にぽいぽい放り込む。
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