ふたつの指輪
「車出して」


梨恵さんは低い声で言った。


間髪入れず、車がするすると滑り出す。






「あの……すみませんでした、梨恵さん」


後ろから、梨恵さんに声を掛けた。


梨恵さんは黙って首を横に振った。



「私こそごめんなさい……うまく事態を収拾できなかった」

「いえ、とんでもないです……ほんとすみませんっ」


あたしは頭を何度も下げた。



うちの家のあんなところを見られて、実際あたしはひどく恥ずかしかった。



「……あれから、ママ何か言ってました?」

「……うちの娘を誘拐する気かって言われたわ。

あと、私を殺す気かって」

「……」

「単に職業的訓練だって、口からでまかせをいろいろ言って……最後は逃げて来ちゃった」

「……すみません」

「殴られるかと思ったわ……正直怖かった」


梨恵さんも、はぁ~っと肩で息をした。
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