ふたつの指輪
「警察とかに、言わなきゃいいけど」

「多分、そこまで気力ないと思います。

あたし、携帯も持ってますし、連絡は取れますから。

……本当に、変なことに付き合わせてしまってすみませんでした……」


「ううん、気にしないで。


……大変ね」


小さく微笑んで。


それきり梨恵さんは黙り込んだ。



尊さんも、あたしたちの会話には割り込まずに、黙って前を向いて運転してた。





梨恵さんを乗せたところで車は止まって。

助手席から降りた梨恵さんは、尊さんを名残惜しそうに振り返った。


「何かあったら遠慮なく声かけて」

「悪かったな。感謝してる」



運転席の窓から首を出してそういう言う尊さんに寂しげににっこり微笑むと。


梨恵さんはふと尊さんに顔を近づけて、耳元で何かささやいた。
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