手のひらの脳
稜子は、家族に心配してもらいたいと思っていた。
小学校の頃はよく心配してくれて、優しかった。
どうしたらいいのか、稜子は思い付いた。
置き薬が3社程ある家で、風邪薬が大量にあるのを知っていた。
風邪薬に含まれるアセトアミノフェンは12g~致死量とされていて、胃に何もなく、体が弱っていた稜子なら…と11.8g程摂取した。
百何錠も飲み込むにはかなり苦労をした。

最初はふわふわと体が浮く感覚がし、吐き気がしてきた。
ここで吐けば全て台無しだと堪えたがトイレまで我慢出来ず、台所で嘔吐した。
苦い。
吐いても吐いても気持ち悪く、何も出てこなくなった。水を飲み、指を喉に入れ、また吐く。そうすれば少し吐き気が治まった。

台所から聞こえる苦しそうな声と、流しに落ちるボタボタという音。
それに気付いた祖母が台所の電気を付けた。
稜子は今にも倒れそうで、呼吸が小刻みになり、寄りかかっていないと崩れてしまうくらい足が震えていた。
その状態で祖母からの優しい言葉を待っていた

「何やっとるん…あんたが馬鹿みたいな生活しとっから頭おかしくなってしまったんやぜ」


期待してはいけなかった。
馬鹿だった。
風邪とか、病気とか、そんな心配はしてくれなかった。
頭のおかしな子としか、思われていなかったのだ。

これ以上祖母の話しを聞いていたら、本当に気が狂いそうだと思い、部屋に行こうとするが体が重く動けない。
冷たい床にそっと横になった。心地いい。
ひたすら祖母の説教が続いている。
視界は砂嵐のようになって上手く見えない。
風邪薬の成分で眠たくなってきた。
目を瞑り、呼吸をゆっくり繰り返す。


このまま死にたい。
このまま目が覚めませんように。


稜子は眠りについた。

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