禁じられた遊び
「数学の勉強に焦る女に予算案を任せようとは思わねえよ」

「…すみません」

桃香ちゃんが背中を丸めると、申し訳なさそうに謝った

「桃には桃に合ったレベルがあるんだ
こんな人の心の痛みもわからねーような男に頭を下げる必要はないんだよ」

「なに?」

勇人の声が一段と低くなる

書類を持っていないほうの手を強く握りしめて、勇人は拳をつくった

怒りでふるふると筋肉が震えていた

どうして怒るの?

いつもみたいに『くだらねえ』の一言で、流してしまえばいいんじゃないの?

「だって、そうだろ?
桃の体にある痣、誰にやられたか…勇人さんだって知っているはずだ
なのに、何の対策もせずに、家に帰すなんて
恐怖におびえて暮らす人間の心を知らないからできる行為だ」

克波?

『恐怖におびえて暮らす人間の心』って?

克波みたいに、世間の厳しさを知らないお坊ちゃまにわかるって言うわけ?

人の体を玩具みたいに遊んで、お金をちらつかせるような子供に理解できるっていうの?

「ちっ」と勇人が舌打ちをしたのが耳に入ってきた

勇人が拳をつくっている手を制服のズボンの中に手を突っ込んだ

ポケットの中で、何かを握っていた

「何よ…それ
克波だって人の心なんて知らないくせに、偉そうこと言わないでよ」

「小花?」

勇人が驚いた顔をして、振り返った

私にだって言わせてもらうわよ

偉そうなことを言う克波が悪いのよ

桃香ちゃん、桃香ちゃんって!

大切なお人形を、男が取り合ってるなんてバカみたい

そんなことで、生徒会を崩されたくないのよ
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