禁じられた遊び
『もしもし?』

「…っく、ひっく…うっ、うぅ」

優しく響く声が耳に入ってくるなり、あたしは涙が一気に目から溢れてきた

手に握っているカードを強く握りしめる

『もしもし?』

相手がもう一度、呼びかける

そうだ…名前を言わないと

始めて電話したのに、名乗らないと悪戯電話だと思われちゃうよ

「あ…あの…っぐ、ふぇ…う、ん」

名乗りたいと口を開くのに、出てくるのは嗚咽ばかり

どうしたら名前が言えるの?

ちょっとだけでいいから、名前を言うときだけ涙は止まってよ

「ふ…ふぇ」

『もしかして、桃香様ですか?』

電話の相手が、あたしに気づいてくれる

「ふぁい」

鼻をすすりながら、やっとの思いで返事ができた

そう、私はテツさんに電話をした

テツさんの優しい声が聞きたかった

誰かに温かい言葉をもらいたくなった

良太郎にひどいことをされ…心がずたずたにされた気がしたから

誰かに温かく包み込んで欲しくて、電話してしまった

迷惑な時間だってわかってる

もう0時をまわって、寝ている時間だってわかってるけど…

ごめんなさい

どうしても、どうしても声が聞きたかったの

「すみません」

あたしは小声で謝った

『お義兄さんですか?』

「え?」

もしかして勇人さんから聞いたのだろうか?

『誤解しないでください
勇人様からは何も聞いてませんよ
ただ勇人様のマンションでの話と車中での話を聞いて、僕なりに理解はしてますから』

「あ…ごめんなさい」

『いえ、気になさらないでください
僕から電話番号をお教えしたでしょ?』

どうしてテツさんはこんなに優しいのだろう

どうして言葉を聞いているだけなのに、心が安心するのだろう
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