禁じられた遊び
克波さんがクッキーを指でつまんだ

「食べてください」

「ああ」

克波さんがクッキーを口の中に入れた

良かった
食べてくれた

それ、小花さんのクッキーなんです

本当はあたしのより、小花さんのクッキーが食べたかったはずだから

心に鍵をかけた克波さんだからこそ、あの部屋できっとすごい葛藤をしていたと思うから

小花さんのクッキーを食べて欲しかった

ごくりと喉仏が動くと、あたしは大きく頷いた

「今の小花さんのクッキーです」

「はあ?」

克波さんが目を見開いた

驚いた表情をしている

「克波さん、本当は私のより小花さんのクッキーが食べたそうだったから」

エメラルドグリーンの瞳が、かすかに潤んだ

克波さんはあたしに背を向けると、天井を見上げた

「…たくさぁ、本当にあんたは偽善者だよ」

「いきなり忘れるなんて無理ですよ
だってあんなに近くにいるのに……」

「ばっかだなぁ
気持ちを隠すなんて簡単なんだよ」

「嘘つき」

あたしも克波さんに背を向けた

必死に涙をこらえている克波さんの背中が、涙を流して泣いているから

あたしは見ていられなかった

この涙を見ていいのは、小花さんだけだと思う

「嘘は簡単につけるけど、真実を直視するのは辛いんだよ」

ぼそっと克波さんが呟いた

「そういうときは見ないのが一番です
自分の気持ちに正直に生きてください」

「偽善者」

「他人に言うのは簡単ですから」

「…ったく、そんなんだから良太郎に馬鹿にされるんだ」

良太郎に馬鹿にされる…か

そっか
あたしは馬鹿にされるんだ
< 93 / 200 >

この作品をシェア

pagetop