あいの手紙
何か、言われたのは覚えてる。
それが、罵声だったのか、嘲笑だったのか。
はたまた、慰みだったのかなんて
覚えてもいないけど。
ただ、私は彼女が広人と寄り添って入ってきた時には既に、
自分の荷物をまとめ始めていた。
ふと、目の端に映る、
テーブルの上にのったいつもより少しばかり豪華な料理が
なんだか、とてもむなしい。
…頑張ったんだけどな。
まるで何かを吹っ切るように、顔をそらした私はソファーの上にあったバッグを乱暴につかんだ。
部屋に入ってきた彼女は一瞬驚いたような顔をして
すぐにそれが私だとわかると、にやりと嫌味な笑いをして見せた。
あとはもう、うろ覚えだ。
何も聞きたくなくて、
すぐに家を飛び出した。
幸い、私には暖かいコートも、移動する手段も、帰る家もある。
こんな寒い中、一人凍えてさみしい夜を越さねばならないことはなかった。
・・・けれど、
唯一足りないものがあった。
・・・広人だ。
雪が降り積もった道を駅まで歩いた。
走らずに、
歩いた。
一歩、一歩踏みしめるように。
だって…もしかしたら、
広人が追いかけてくれるかもしれないじゃない。
待てよ。って。
俺には麻結だけなんだって。
嘘でも、いいから。
だから、おねがい。
私を追ってきて。
ぶわりと涙があふれ出す。
けれどその涙は、ほほを伝って地面に落ちる。
いつも拭ってくれるそのぬくもりはここにはない。
いつの間にか私の足は止まっていた。
けれど、私を追いかける影はない。
地面に、おちた涙が雪を溶かして跡が残る。
暖かい私の涙は雪をも解かすのに・・・
反対に私の心は涙を流すたび、凍り付いていくようだった。