あいの手紙


「あの、中西だよな?」


ふと後ろから名前を呼ばれた。


呼ばれるはずもない名前にびっくりしながらも、今この空間にいるのは紛れも無く、私と川瀬優吾、彼なわけで…


思わず、恐る恐るそっと後ろを振り返った。



「そう…だよ?」

緊張して妙にぎこちない返事になってしまった。

「よかった!!なかなか返事がないから、間違ったかと思ったよ。オレ隣のクラスの川瀬優吾。」



そういって彼はさわやかに手を差し延べて来た。

これは握手の手…だよね?


差し出された手に戸惑いながらも、そっとその手を握り返した。



「中西ってテニス部だよね?今日部活休み?」

「うん。休みなんだ。」



今目の前には、学年一かっこいい彼がいるはずなのに、私はなんて可愛くない返事の仕方なんだと、自分がホントに情けなくなってくる。


もっと他にも答えかたなんてあっただろうに、

それに可愛くなれなくったって面白さを求めたりね?


自分の会話能力のなさにびっくりだ。



そんな私の心の葛藤なんてつゆ知らず、川瀬君はにこにこと話を続けてくれる。


「そうなんだ羨まし!!
こんな遅くまで残ってるから、俺と一緒で部活サボってんのかと思ったよ!!」

「サボりじゃないよ!!川瀬君、抜け出して来たの?」


にかっといたずらに笑う彼の笑顔は夕日に照らされてほんのり頬が赤くなって見えて不覚にもかわいいなんて思ってしまった。




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