あいの手紙
「たぶん、そうだったな。
周りに先生も他の奴らもいなくて俺とゆうの二人だけ。
しかも、ゆうは全身ずぶ濡れで
泣きそうになりながらおれの服ギュッと握って泣くの我慢してさ。」
あぁ~・・・そうだったかも。
段々思い出してきた。
あの噴水浅かったから溺れることもなかったけど、
でもやっぱり頭から突っ込むように落ちたから
それこそ頭から足の先まで冷たくて。
けど、お母さんも先生もいなかったから誰も助けにきてくれなくて。
心配して周りにいた大人の人が噴水の中から引き上げてくれたんだけど、
私、すっごい人見知りで・・。
知らない人に囲まれてすっごいさみしくなって。
そういえば、あの時・・・
「・・・たっちゃんが、大人の人の輪の中をかき分けて、
私のところに来てくれたんだったね。知らない人だらけだったからさ、
心細くて・・・たっちゃんが来てくれたときはほんとに安心したんだ。
それで、安心したら涙出てきちゃって・・・けど、いつもたっちゃんの前では
私威張ってばっかりだったから、泣くの悔しくて必死に涙こらえてたんだよね。」
「ほんと、あのころのゆうは意地っ張りの上
好奇心旺盛なんだか、すぐどこか行っちゃって、よく迷子になるし
先生のいうことは聞かないしで・・・」
私、どんだけやんちゃながきんちょだったんだって感じだよね・・・
さすがに今の私は昔の私を反省するよ。
「けど俺、気づいたらゆうのこと目で追ってて
いつもハラハラさせられて・・・
ほんっと
・・・目が離せなかった。」
それとほぼ同時に彼と目が合って反射的にぱっとそらしてしまった。
一瞬だったけど、
とても真剣な目をしていたから。
「ほっほかには!?」
近くに生えていたシロツメクサの大群をいじりながら彼の視線をごまかすために
話しかける。
「…ほかに、か。」
他に。
何か考えるようにじっとここから見える廊下を凝視したまま動かなくなった彼。
しばらくして、ようやく
そっと話し始めた。