Two Strange InterestS
 彼はマンションの入り口で出迎えてくれた。相変わらずの優しい笑顔を、彼女だけに向けて。

「ゴメン。いきなり呼び出しちゃったけど……」

「気にしないでくださいよ、先輩。私でお役に立てるのであれば何でも言ってくださいっ」

 最初はとにかく笑顔! そして、あまりこれが、彼女が今まで体験してきて実感した勝利の方程式その1である。

 その2以降もこれから実践して、押しの弱そうな先輩を自分のペースに巻き込んでしまおう。そのために、今は我慢である。徐々に巻き込んで、彼が巻き込まれていることに気がついたときには、もう、取り返しがつかないように――

「宮崎さん?」

「えっ! あ、ゴメンなさい……って先輩、その呼び方やめてくださいよ~」

 むぅっとむくれてみると、彼は苦笑いで何も言わなかった。まぁ、そんなこと些細な問題。これから何とかしていけばいいのだ。
 時間は……まだ、たっぷりあるのだから。

 彼と一緒にエレベーターで4階まで。そして、部屋までの廊下を歩きながら、ふと、

「宮崎さんなら、俺のこと昔から知ってるし……だから、相談に乗ってほしいんだ。いいかな?」

「はい。私で良ければ、いくらでもお話聞いちゃいますっ!」

 ここはあくまでも普段通り。まだ自分の手の内を明かすわけにはいかない。焦らず、機を逃さず、確実に――頭の中で計算を巡らせつつ、普段より人懐っこさと笑みを3割増にしておく。

 対する彼は、普段とは違う、真面目な声。覚悟はしていても鼓動が早くなってしまう。動揺を悟られないように、一歩一歩、確実に前へ進む。

 そして、部屋の前。彼が、その扉を開いた瞬間――
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