Two Strange InterestS
 そして、私は……今、彼の部屋にいる。

 どうやら今日も、部屋の主は夕方からバイトらしい。この時間にいないってことは、多分あと30分後、10時過ぎに帰ってくるはず。

 私は電気もつけずにベッドに転がって、ただ、そのときを待っていた。

 反射的に布団をギュッと握り締める。抱きしめてくれた彼の温もりはない。何度も私に笑顔を向けてくれた、優しく抱いてくれた彼が……今は、いない。

「あ……」

 不意に、彼の匂いを感じた気がした。それだけで彼が近くにいるような錯覚。
 でも、手を伸ばしても……誰も、いなくて。

「何、やってるんだろ……いるわけ、ない、のに……っ」

 抑えていた感情が、堰を切ったように溢れていた。

 あの手を、腕を、離したくなかった。
 名前を呼んで、髪を撫でてくれる彼がいない。
 いつも床に座って文庫本を読みふけり、ゲームに熱中する私へ苦笑いを向ける彼が……


 薫が、いない。


「ぅっ……ぁっ、あぁっ……!」

 背中を丸めて嗚咽をかみ殺した。今は泣いちゃいけない、もうすぐ彼が帰ってくる時間だろう。それまでは……彼に自分の正直な思いをぶつけるときまでは、泣かないって……泣かないって……!

「泣かないって……決めたのに……」

 ココで泣き出したら、私は自分を見失ってしまう。そんな気がして。
 自分の中にある最大の見栄を振り絞り、涙をぬぐう。声を上げて泣くことを必死に我慢していた。


 ――と。
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