Two Strange InterestS
 そんな折、彼女が唐突にこんなことを言う。

「ねぇ、新谷君。今までどんなあだ名で呼ばれてた?」

「へ?」

 脈絡のない質問に、今度は俺が目を丸くした。

「あ、いや……新谷君って呼び方も何となく形式的でつまんないなぁと思って」

「あだ名……」

 少しだけ考えてみる。今まであだ名で呼ばれたことは……。

「……特にないかな」

 特になかった。
 事実をそのまま正直に告げる。「まぁ……そんな気はしてた」と、しばし考えた彼女は、

「新谷、新谷……ミルフィーユ新谷、略してミル新、とか?」

「じゃあ俺はローゼン沢城って呼ぶぞ?」

「……ゴメンなさい自重します」

 声優ネタで切り返された彼女が口ごもるが、さすがにミルフィーユは恥ずかしいし、知らない人に説明するのも面倒なので、反論しておかないと。
 脳内で他のネタを検索しているのか、再び思案する沢城さん。

「勝手なイメージだけど、私の中では「君」っていうより「氏」って感じなのよね。ジェントルマンというか……そんな感じの」

「はぁ……」

「だから、その……うん、私はこれから新谷氏って呼ぶ!」

 しんたにし。
 下から読んでも……いや、違うな。むしろ、

「新谷氏? 言いにくくない?」

「いいの! こういうのはファーストインプレッションが大事なんだから」

 彼女の中では話が繋がっているらしい。まぁ、最初のものに比べれば嫌な呼び方でもないので「まぁいっか」と認めつつ、

「俺はどうすればいい?」

「んー……まぁ適当に。でも、名字なら呼び捨てがいいかな。敬称略ってことで」

 敬称略、それは俺の中で少しだけ、勇気が必要な呼び方だけど。

「――じゃあ、沢城」

「ん。じゃあ私は新谷氏って呼ぶね」


 あの時の俺は、すんなり彼女を呼ぶことが出来た。
 それはきっと、僅かな時間でも彼女の一面をある意味深く知ることが出来た結果だと思っていたけど、もしかしたら、この時からそれ以外の理由があったのかもしれない。
< 68 / 160 >

この作品をシェア

pagetop