ドールタウンミーティング
ボイスチェンジャーは叔父の私物だ。

対応に行き詰まった場合に使うらしい。
今回ようなケースで使うのだろう。

さすがに実際に使っているところは見たことがない。

そもそも複数の人間が居れば使う必要のない代物だ。

せっかくの休日に若い女が古びたマンションの一室で怪しげな電話を受け、ボイスチェンジャーで一人芝居をする。

こんな現実。
別に虚しくもないし、楽しくもない。
ただ少し前には想像だにしなかったことは事実だ。

大学では心理学を専攻した。なんとなく大学院に進んだ。院卒後も大学に残ろうと思っていたが辞めた。

大学でちょっとした不祥事があり、教授が何人か出て行き、変わりにそりの合わない奴が教授になった。

面倒だったので就活にせいを出し、半年前から小さなソフトウェア開発会社に腰を落ち着けることになった。

アカハラもセクハラもない弱小ベンチャー。
これまでの大学生活を糧にはまったく出来ないが気に入ってはいる。

面倒な人間関係はない。寡黙な技術者、年の離れた管理部の面々とは接触がない。営業補佐というのがアタシの立場。

営業担当はアタシの他は一人。上司なわけだが4つほど年下。やりづらさはない。年の割にクールで仕事もできる。
でも、なんかかわいいとこもある。

さすがに手は出さないけど最近は打ち解けてきて、飲みに行ったり、彼女の事で相談を受けたりもする。

あのまま大学に残るよりも良い選択だったと自分では思える。
< 23 / 29 >

この作品をシェア

pagetop