ドールタウンミーティング
そんな叔父ではあるがアタシは尊敬している。
お金にもならない事を真面目に一生懸命やっているのは偉い。

まあ、そんな事を出来るのも資産があって、独身だからなせる技だと思うが。

「麻美ちゃん、今日はどうだった?」

いつもの報告タイムだ。

「電話は三件。派遣切りの中年女性、いじめにあってる中学生、あと二十代男性はいたずら」

「いたずら電話の内容は?」

叔父はいたずら電話をいつも気にする。
一見していたずらでも何らかのメッセージである場合がある、というのが自論だ。

「自殺しようと思ってたのに邪魔するなってさ」

「他には?」

「なんかアタシとは話たく無いみたいだから上司に代わった」

「ボイスチェンジャーを使ったのか」

「うん。そしたら急に大人しくなった。最後はアタシの声で謝っておいた。なんだか対応に怒ってたから」

叔父はそれを聞いて安心したようだ。

ごめんね、叔父さん。
一部着色して話してしまった。
でも、だいたいはあってるよね。

「電話以外は特に何もなし。来訪者もゼロ。NHKも水道局も宅配も回覧板も来なかったよ。だから叔父さんの著書を読んで勉強させていただいてました」

そう言うと叔父はあからさまに嬉しそうな顔。

アタシの手元にある自著を見て言う。

「ああ、『自殺者との対話』か。だいぶ前に書いたものだからなあ。そろそろ新しいものを書かないとな」

ごめんね。
一行すら読んでなくて。
だって、正直面白くなさそうなんだもん。

「良かったら、それ持っていっていいぞ。まだ何冊も同じものがあるからな」

「いいよ。アタシはここで読めるから。もっとさ、必要としてる人にあげてよ」

まだ何冊あるのか。
自費出版なんだよね、これ。

「お昼はそばにしたよ、これが領収書ね」

叔父は領収書を受け取ると変わりに本日分の日当とお昼代をアタシに渡した。

これで本日の仕事は完了。
水天宮前駅から自宅の住吉まで電車でまたレイトン教授の続きでもやろっと。

「それではお疲れ様でした」

叔父はいつものように玄関先まで見送ってくれた。

「お疲れさん。また頼むな」

いえいえ、こちらこそ。
少しばかりの罪悪感もありつつアタシは事務所兼、叔父の自宅をでた。
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