加納欄の想い シリーズ12
 孔明師範が、また声をかけた。

 あたしは、つかまれた腕を振り払い、逆に大山の腕をとるとネジあげ、脇腹に当て身を入れた。

 大山は、脇腹をおさえ、方膝をついた。

 あたしは、孔明師範のところへ、戻った。

「欄!」

 大山が、声を張り上げた。

 あたしは、無意識に立ち止まった。



低音の……。



どこかで、聞いた……。



 あたしは、振り向いて、大山を見た。

「欄。思い出せ。催眠術なんかに負けるな。欄、欄!」



なんだろう……。



たまに、頭に聞こえる声と重なる……。



 あたしに向ける大山の瞳が、真剣なのがわかった。

「孔明!欄にかけてる、催眠術解けよ!きたねぇぞ」

 大山が、孔明師範に怒鳴った。

 孔明師範が、わざとあたしの肩に腕を回し、顎をのせた。

「大山さん、言ったでしょ。人聞きの悪いこと言わないでくださいって。欄は、催眠術なんかにかかってないですよ。記憶がないだけです。あなた方の」

 そう言って、あたしの首筋にキスをした。

「(>_<)」

 あたしは、動けなかった。

「記憶、喪、失?」

 大山は、茫然とした。

「欄の、今頭にある記憶は、私と中国で幸せに過ごしていた時の記憶だけです。幸せな、夫婦生活を過ごしていた時の記憶だけですよ」



な、なにを(>_<)!



 孔明師範は、さらにあたしの首筋に唇を這わせた。



ウゥッ!!



 あたしには、何も喋らせないつもりらしかった。

「夫婦……?欄と、お前、が……?」

「そうですよ」



孔明、師範。



ヤッ!



ヤダッ!!



 あたしは、ゾワゾワする嫌な感覚に耐えられなくなり、立っているのがやっとだった。

「孔明、それやめろっ!欄から離れろ!」

「あぁ、欄の弱点は、あなたにも教えたんでしたね」

 大山に言われて、孔明師範が、珍しく言うことを聞いた。

 あたしは、ペタンとその場に座り込んだ。

「欄、ホントか?記憶、ないのか?」

 大山に聞かれて、あたしは小さく頷いた。

「孔明と、結婚……して、たのか……?」

 わかんなかった。

 記憶にはナイ。


< 21 / 43 >

この作品をシェア

pagetop