加納欄の想い シリーズ12
 でも、孔明師範は、結婚してると言った。

「結婚してなかったら、私から無理矢理奪おうとした遼を殺したりはしませんよ」

孔明師範が、耳元で言った。



え?



遼は、あたしを無理矢理孔明師範から、奪おうとしたの?



だから、殺されたの?



「欄、お前が記憶ないだけで、私には全てお前との記憶があるんですよ。1つずつ全て説明できるんですよ。知りたければ聞きなさい。アイツはお前とは関係ありません」

「欄・・・」

 あたしは、大山を見て、頭を縦にふった。

 大山の口から、小さいため息がでた。

 絶望的な表情さえしていた。

「さ、行きましょう」

 あたしは、孔明師範に促された。

 まだ動けない、大山の脇を通り、部屋を出ようとした。

 知らない人なのに、なぜか気になった。

「師範、あたし、あの人・・・知ってるような・・・」

「気のせいですよ。日本のマフィアに、知り合いがいるんですか?」

「いませんけど。でも、あの人は、なんであたしのこと知ってるんですか?」

「こういう仕事してると、情報は筒抜けですよ」

「欄!てめぇ、面出せ!戻って来い!欄!顔見せろ!欄!欄!!欄!!!」

 部屋を出ようとして、大山の声が聞こえた。

 何度も呼ぶあたしの名前を聞いて、あたしの心に変化がおきた。

 名前を呼ばれてるだけなのに、怒鳴られてるのに涙が溢れてきた。

 止まらなかった。

「あたし、知ってる……」

 あたしは、立ち止まった。

「あたし、この人、知ってる」

そして、新たな記憶が追加された。


”なんでかわかんないんですけど、ビフテキ食べてたら、牛に追いかけられたんです”


”それだけで、あんな大声だしたのか?”


”はい……すみません”


 また、声だけだった。

 何のどんな時の記憶かは思い出せなかった。

 でも、わけわかんない記憶の中に、幸せにみたされた気持ちがあった。

「欄、その涙の意味はなんです?」

 孔明師範に聞かれたけど、答えられなかった。

「孔明師範。あたし、会ってきます」

 あたしは、孔明師範に伝えると、きびすをかえした。

 その瞬間に、孔明師範が、あたしに立ちふさがった。


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