加納欄の想い シリーズ12
「欄、少しは思い出せましたか?私との事を。お前を、小さい頃から養い、お前の愛情に気づいて結婚した私の事を」

 あたしは、そう語る孔明師範を、ただ見つめた。

「ま、お前の、熱烈なアタックに私が根負けしたんですけどね」

 孔明師範が、優しく笑った。

「私が、こ、孔明師範に、告白したんですか?」

「・・・そうですよ。最初は、子供の思い違いだろう、と思って適当に受け流してたんですが、どうやら、欄は、本気だったみたいですね。それに気づいて、私も結婚を意識しはじめたんですよ。私としては、弟子でもありますからね、迂濶に手出しはできませんから」



あたし・・・。



そんな事も、忘れてるの(__)?



あたしから、好きになった人の事なのに。



 あたしの落ち込んだ表情を見て。

「欄」

 孔明師範が、あたしを気遣った。

「ごめんなさい。私、大切なこと覚えてなくて」

「気にしなくていいんですよ。少しは思い出せてるみたいですし・・・ただ、私が、欄の夫であることを忘れられていたのは、いささかショックでしたけどね」

 孔明師範は、寂しそうな表情を見せた。

 あたしの心が、ズキッとした。

「ごめんなさい」

 あたしは、目を伏せて、もう一度謝った。

 孔明師範の指が、あたしの顎をとらえ、クイッと上へ持ち上げた。

 孔明師範の瞳と、目があった。

「お前は悪くありませんよ。記憶は私と一緒に生活していれば取り戻せますよ。落ち込むことはありません。私の言うことを聞いていれば、全てうまくいきますよ」

 そう言って顔を近づけてきた。



こんなに、あたしの事を思ってくれる人はいないかもしれない。



やっぱり、あたしは、孔明師範と結婚しているのかも。



あの武術一筋の人が、あたしと結婚したんだ。



今は、結婚した時の記憶ないけど、戻れば何の不安もなくなる。



あの、大山って人の、記憶もないのに、気になるのもおかしいけど、マフィアに、知り合いがいるわけがない。



それに、孔明師範が、あたしに嘘をつくはずがない。





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