加納欄の想い シリーズ12
 孔明師範は、両手に拳銃を持つと、前後に構え、あたしと、高遠先輩に向けて発射した。

 あたしのコメカミすれすれに銃弾が走り、バランスを崩したあたしは、海へ真っ逆さまに転落した。

「欄っ!」

 高遠先輩の声が遠くで聞こえたような気がした。




「・・・・・・」

 目が覚めた。

 頭が重く、身体が、動かなかった。

「欄、目が覚めたか?」

 あたしの気配を感じて、誰かがあたしの所へ来た。あたしは、まだボーっとしていた。

「欄、わかるか?」

 あたしを除き込むようして、声をかけてきた。

「ここ、は……?」

 かろうじて、声は出せた。

「どれくらい流されたかわかんねぇけど、落ちた所から、そんなに離れてねぇだろ。うまい具合に、洞窟になってて、外から目立ってねぇ場所みたいだけど、満潮になったらヤバイな。早目に移動するぞ、動けるか?」

 知らない男が話しかけてきた。

 身体が痛かった。

「起きれるか?」

 また、知らない男に、話しかけられた。

 肩にケガをしているようだった。

「ケガ・・・」

 あたしは、血に染まったシャツを見ながら話した。不思議と、恐さはなかった。

「なんだよ、ヤケにしおらしいじゃねぇか。傷なんて、たいしたことねぇよ」

「あ、あの・・・」

「ん?」

「あなた誰ですか?」

 あたしの質問に、男の動きが止まった。

「欄・・・?」

「す、すみません。欄って誰ですか・・・?ここ、どこですか?」

 男は、真面目な顔になり、あたしを立たせた。

「欄。どうしたんだよ。わかんないのか?」

「ごめんなさい」

 あたしは、謝った。

 自分の名前がわからなかった。

 目の前に立っている男もわからなかった。

 ここがどこなのか。

 あたしは、何をしているのか、全くわからなかった。

「欄。あぁ、お前は、欄って名前なんだ」

「ら、ん?」

 名前を聞いても、思い出せなかった。

「あぁ。俺の、恋人だ」

 目の前の男に、そう教えられた。






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