放浪カモメ
プロローグ〜回りはじめた運命の歯車〜
回りはじめた運命の歯車
『ミーン、ミンミン、ミーン。』
むせ返るほどに熱い日差し。
耳をつんざくようなセミの鳴き声。
木造の床から匂う湿った空気。
『ドタドタドタ。。』
慣れない床掃除で、お世辞にも軽快とは言えない音を立てる一人の少年。
岩手県のとある山奥にあるお寺。
そこで少年は一宿の礼として敷地の掃除をしていた。
「和尚(おしょう)さーん。床掃除終わりましたぁ。」
少年が誰もいない仏堂に向かい叫ぶが、もちろん誰もいないのだから返事があるはずもない。
少し返事を待ってみるものの、一向に返事はなく。
少年は床にあぐらをかいて座り、目の前に広がる雑木林を見渡した。
「和尚さん出かけちゃったのかな…?」
真夏の暑い日差しの中。北風だったのだろう心地よい冷たい風が吹く。
長旅で伸びてしまった少年の黒髪を風がフワリと撫でた時。
「お、床掃除終わったんだねご苦労様。」
いつの間にか仏堂から和尚が顔を出していた。
その和尚の大きくはない背中の後ろに、一人の少女が立っていることに少年は気付いた。