放浪カモメ
その頃、新田はまだベンチに腰掛け池を眺めていた。
「あーあ、フラれちったなぁ。」
ボーッと見つめている先では先程までいたボートに乗るカップル達の代わりに、数匹のアイガモがのんびりと泳いでいた。
「にしても……あんな半端な所で断らないでくれよ。きっちり告白して、きっぱり諦めよう。って思ってたのに。」
新田はまだほのかに岡崎の匂いの残る、横のベンチを見つめる。
「くっそ女々しいよなぁ……諦められねぇよ。好きなんだよオレ。あんな断られ方したって、早苗ちゃんがカモのことしか見てないからって、好きなもんは好きなんだよちくしょーーっ!!」
新田の叫びに散歩をしていた人達が振り向いた。
その顔はだれもがにこやかで、優しい気持ちに満ちていた。
「きっと俺ってば、いつだって真っすぐにカモだけを見つめている。そんな早苗ちゃんが好きだったんだろうな……」
新田はいつもより重く感じる腰を上げると、何故だろういつもより身体は軽く感じるのだった。
池の周りの柵にまで歩いていき、優雅に泳ぐアイガモ達を見つめる。
真下に落ちていた小さな小石を拾い上げて、アイガモ達に当たらないように気を付けながら、アイガモを目がけて石を投げつけた。
「ったく……憎らしいよ、カモ。」
ポチャンと小石は同心円の波を生み出しながら、ゆっくりと沈んでいく。
波に足を捕られたかのようなアイガモが、わずか先を泳ぐ小さなアイガモを見つめていた。
その先に泳ぐ、もう一羽を真っすぐに見つめているそのカモを……