放浪カモメ

佐野には今の鴨居の気持ちが手に取るように分かっていた。

すぐにでも追い掛けるべきだ。謝らなくては。と思っていることはバレバレだった。

そしてそれが間違いであると知っている佐野は鴨居を止める。

「鴨居。頼んでおいた資料は?」

急いでいるのに。と言わんばかりの鴨居らしくない表情で佐野を振り返る。

唇を噛み締めながら残っている資料を見た。

「あと少し残ってます……」

そうか。と小さく言って佐野は今まで鴨居が作業していたパソコンを覗き込んだ。

そして、いつもの様に煙草を取り出す。

「うん、ご苦労だったな。ここまで仕上がってりゃ十分だ。帰っていいぞ。」

「えっ……?」

鴨居は呼び止められて、作業を続けろ。と言われるとばかり思っていたので驚いてしまう。

鴨居は机の上に置いていた荷物を持ち、部屋から出ていこうとした。

すると、佐野が静かに言う。

「ただ……岡崎は放っておけ。詳しい事情は知らんがな、泣きながら謝罪と礼を言ったやつにかけてやれる、便利な言葉なんて人間は持ち合わせちゃいないよ。」

そして佐野は手に持っていた煙草を口にくわえると、机の引き出しから真新しいマッチ箱を取り出した。

そこから一本マッチを抜き出し、火を点ける。

「ましてや告白を断ったやつが相手にかける言葉なんて、きっぱり諦めさしてやる為の"付き合えない"って言葉くらいなもんなんだよ。」




先生の言っている言葉は理解できた。

しかし、だからどうすれば良いのか鴨居にはわからなくて。

「先生……オレはどうすればいいんですか?」




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