放浪カモメ
「次の講義は新田くんも一緒だし……よし。普通に、"普段通り"に。」
鴨居はやや勇ましさも感じるほど背筋をピンと張って歩きだす。
そして、講義の始まる五分前に教室に着くと新田を探して教室を見渡した。
まだ生徒はポツポツと居る程度だったが、目的の人物はいつもの場所に座っている。
鴨居はドアを閉めながらゆっくりと深呼吸をすると歩きだした。
何気なく。何気なく。
そう思ってはいるのだが気持ちばかりが先走り、いつの間にか早足になってしまっている。
新田の横まで進むと、声を引っ繰り返しながら満面の笑顔で言う。
「や、やぁ、新田くん。ここ座っても良いかな?」
自然を装う不自然な鴨居に新田は小さくうなずく。
鴨居は新田の前の席に着くと、後ろに振り返った。
「ねぇ、新田くん。先週の講義って何やったんだっけ?」
新田は少し哀しげな表情で鴨居を見ると、一言だけ発して腕に顔をうずめてしまった。
「悪ぃカモ。今日俺寝てねんだ。」
「あ……うん、ゴメン。」
それからは一言も交わすことなく講義は終了した。
「仕方ないさ。まだ始まったばかりだもの……」
鴨居はまだ気付いていない。自分の中で確しかになりつつある疑問のことを。