放浪カモメ
杉宮は珍しく「ジャガイモとベーコンのグラタン」を注文した。
熱々の鉄板に、乗せられたジャガイモとベーコンの焼けた匂い、そしてチーズの香ばしい匂いが鴨居の鼻を刺激した。
「ほい、カモも食え。」
杉宮は運ばれてきたそれを雑に取り分けると鴨居に渡した。
二人はまた黙って、グラタンを食べる。
しばらくグラタンに没頭していると杉宮の方が口を開いた。
「なぁカモ。俺はやっぱりさ今回のカモに否はないと思うよ。」
とても静かに話す杉宮を見て、鴨居は途中で口を挟むべきではないと判断した。
「でも、カモの取った行動には否があると思う。」
自分を非難され、鴨居はとうとう口を挟もうとしたが、杉宮は気にせずに続けるのだった。
「オレは別に……」
「でもな。俺はカモには今のままで居てほしいと思うよ。人間てさ…常識とか見栄とか、性別、人種、宗教とか、色々なものに自分らしさを縛られて生きていると思うから。」
「先輩……?」
なんだか鴨居には自分よりも杉宮の方が何か深い悩みを抱えているような気がしてならなかった。
そして杉宮自身気付いていた。
今自分は、鴨居という鏡に向かって自分自身に言い聞かせているということを。
自分がそれに縛られて生きているのだということを……