放浪カモメ

たくさんのビデオを借り終えると鴨居はすぐに大学へと戻った。

佐野の研究室に入ると、佐野は煙草をふかしながら、まだ作業を続けている。

「おう、ご苦労だったな。」

佐野は鴨居が部屋に入ってくると、顔も見ずにそう一言だけ言い、作業を黙々と続けた。

鴨居はデスクの上にビデオを置くと、自分が借りた映画だけを抜き出す。

「佐野先生、なんで有名どころを借りないんです?韓流って四天王だとかいるじゃないですか。」

「ん?あぁ。有名どころはもう全部見たからな。私のスタンプカード見なかったのか?」

鴨居はビデオ屋の会員カードを取り出す。

真っ黒に光沢を放つそのカードは、ビデオを年間500本以上借りた者だけが手にすることが出来る通称「ブラックカード」と呼ばれる物だった。

「いや、噂には聞いてましたけど実際にブラック見たの初めてですよオレ……」

鴨居は呆れ半分でそう言うとカードをデスクに置いた。

太陽の光を浴びたブラックカードは何故か誇らしげに輝いて見えた。

「良いだろ?やらんぞ。」
「いや、いりませんよ。それより先生……あの」

鴨居はメモの裏に書かれていた跡について尋ねようとして、その口を止めた。

「ん?なんだ。」

「いえ、何でもないです。ビデオ代ありがとうございました。」

そう言って鴨居は研究室を出ていった。


「……?変な鴨居だな。」



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