放浪カモメ
鴨居が居なくなってから数時間後。
佐野は作業が一段落すると鴨居に頼んだビデオを確認する。
そこには彼女が予想していなかった作品も混ざっていた。
「これは……鴨居のやつ。」
咎めるような言い方だったが、表情はそれとは反対に穏やかだった。
『ポタッ』
カーッペットに、窓から差し込む光を受けた雫がこぼれ落ちる。
「アンタが居なくなってから、見たくても借りられなかったんだよ……?」
それは佐野が最愛の人とよく見た思い出の映画だった。
始めは佐野がその映画を好きになった。
それを薦めると彼はまたたくまにその映画のファンになり、たまに二人の都合があうと頻繁にその映画を見ていたのだ。
「私にはアンタしか居ないんだよ?ねぇ、返事をしてよ……マサ…」
『ガチャッ』と扉が開くとそこには杉宮が。
涙を流す佐野と目が合い、杉宮は動くことが出来なくなってしまう。
佐野の目は言っていた。
「私の愛した人との夢の様な……いや、夢の時間はもう来ないんだよね?」と。
「あ、俺……すみませんでした。」
杉宮はそれから佐野の顔を見ることなく部屋から出ていった。