放浪カモメ
杉宮の苦悩
とある町外れの清潔そうで、大きな大学病院。
真っ白な外観に青々と茂る中庭の木々が、その病院の活気を表している。
そんな病院の一室に杉宮は似合わない花束を抱え入っていく。
滑りの良いドアは静かに、パタンと音をたてて閉まった。
「なんだ要。今日も来てくれたのかい?」
優しげな眼差しとほほ笑みを浮かべる青年。
身体は痩せ細り、弱り切っているのが見て取れた。
杉宮は病室にあった花瓶を手に取ると、花束を植え替えてその青年の横の棚に置いた。
「調子はどう?静兄さん。」
「うん、見ての通りさ。」
そう言って静は笑った。
杉宮も笑みを返すが、その顔から心配の色が消えることはない。
「最近よく父さんが見舞いに来てくれるんだよ。」
父さん。という言葉を耳にした瞬間に杉宮の顔色が変わるのを静は見逃していなかった。
「あの野郎、静兄さんの心労増やすようなことしやがって。」
そう言って怒りをあらわにする杉宮を見て、静は少し哀しげに笑うのだった。
「要は父さんが嫌いかい?」
「当たり前だろ、アイツのせいで、アイツのせいでお袋は…………」
杉宮の顔が憎しみに歪む。