放浪カモメ
「まったく……父さんも要も言葉が足らないよ。」
杉宮が病室を出ていってから、静と雲静は話し続けていた。
「要も樹も僕の言うことを素直に聞いてくれる子なのに、父さんのことについては全く聞く耳を持ってくれない……」
「仕方ないさ……」
そう悲しげに呟いた雲静を見て、静はより悲しげな表情を浮かべる。
「仕方ない。なんて言わないでください。あの子達は父さんがどれほど美由紀さんを愛していたか知らないから、あんなことを言うんだ。」
美由紀とは要と樹の母親の名前である。
雲静は頷きも返事もせずに静の話を黙って聞いた。
「それに……要はまだ父さんが僕に旅館を継がせようとしているんだ。と勘違いしているんだよ?」
その時ついに雲静の沈黙が破れたが、まるで靄でもかかるかのような小さな声であった。
「はは、あの子も美由紀と似ていて早合点する所があったからな……」
そう小さく笑った雲静に静の不満は募るばかりだ。
「なぁ……静。」
「……はい。」
雲静は何かを飲み込みかけたが、きちんと音にする。
「要はウチを素直に継いでくれるだろうか……?」