放浪カモメ
この日、病院に向かう杉宮の足取りは重かった。
いつもならば大好きな兄に会えるのだと、わずかながら心が弾む思いだったのだが、今日は違っていた。
昨日の口論を杉宮は引きずってしまっていたのだった。
病室の前までくると杉宮の足が止まってしまう。
いつもならば、自然と足が前に踏み出すのに今日はまるで地面と鎖でつながっているのではないか?そう思うほどに重かった。
しばらく立ちすくんでいると、病室から優しい声がする。
「要、そんな場所に立ってないでお入り。」
そのいつも通りの声に杉宮の不安も後悔も洗い流された。
杉宮は扉を開け、病室へと入っていく。
「おはよう、要。」
「お……おはよう、静兄さん。」
少し戸惑う杉宮を見て、静は楽しそうに頬笑んだ。
「親父は……?」
「昨日のうちに京都に帰ったよ。」
「そう……」
杉宮は言い知れぬ胃の痛みを感じていた。
「静兄さん、話って何だい?」
明るい話題を振り絞るのだが出てこず、杉宮の口からはそんな言葉が出てきた。
「立ってないでお座り?ゆつくり話したいんだ。」
「うん……兄さん。」
杉宮が椅子に座ると、静はゆっくりと話し始めた。