放浪カモメ

夏の始まり





『チュンチュン』

優しい小鳥のさえずりが、鴨居の耳をくすぐる。

「ん…んぁ……」

ムクリと身体を起こしたその場所は、河川敷の橋の下だった。

「新聞て温かいんだな…」

今の言葉は決して、叙情的に新聞のことを称賛したわけではない。

やむを得ず野宿をせねばならない状況に陥ってしまった際に、布団代わりとして利用すると、思いのほか温かい。と言う極めて叙事的な意味である。

「あー……頭かゆい。つか、臭い。。。」

ボリボリと頭をかくと、四日間は洗っていないのだから当たり前だが、手に油が光った。

鴨居は新聞紙をどけると、立ち上がり、青く澄み切る空に向かって伸びをする。

「んあーーっ、よし。」

そう言って鴨居が向かったのは、河川敷に広がる運動場に設置された水道だ。

「えっと……誰もいない、よ、な?」

辺りを怪しげにキョロキョロと伺った鴨居。

人影が見当たらないと判断した瞬間、おもむろにTシャツを脱ぐ。

そして、水道から水を勢い良くだすと、油の乗った頭を洗い始めた。

「うん…よし。」

何が、よし。なのかは分からないが、鴨居は頭の痒みが取れて満足そうだ。

続いて鴨居は脱いだTシャツも丁寧に洗っていく。



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