放浪カモメ
あのビデオを見終わった瞬間に、僕は家を飛び出していたんだ。
昔からどこか頭の隅にあった感覚。
自分は此処に居ないのではないか――?
何処か遠くで僕が来るのを待ってるのではないか――?
そんな感覚が頭を過(よぎ)り
自覚したときにはもう自転車で走りだしていたんだ。
「二日かけてやっと栃木を抜けられた……山道だから時間かかったんだけど、意外と広かったんだんだな。」
今、鴨居は福島県に来ている。
昨日までの四日間は千葉から栃木を走っていた。
「……にしても、け、ケツ痛ぇ。」
自転車は解説するまでもなく、尻に重心がかかってしまう移動手段である。
普段何気なく使うくらいなら気にはならないのだが、部活の遠征や、隣町のスーパーの大安売りに臨んだことのある人はこの痛みを経験しているんじゃないだろうか。
ロードレースや長距離を移動するための、尻だけに重心のかからない専門的な自転車もあるが、鴨居がそんな物を持っているわけがなく。
いわゆるママチャリで移動をしていた。
ちなみにママチャリでの旅を世間では、無謀と言う。