放浪カモメ
都会は自転車に優しくない。
本来ならば車道を通るべき自転車が車道の隅を走ると、クラクションの嵐に巻き込まれるはめになる。
しかし歩道も厳しいのが現実だ。
街中をうごめく人々を避けながら走るのは不慣れだと容易ではない。
くわえて国道を走ってみると分かるのだが、まず歩道自体が無いことが多い。
大げさでなく目と鼻の先をトラックがビュンビュンと横切っていくのだ。
安全なはずの停止線の内側は、命をギリギリで守ってくれる言わば、デッドラインと言えた。
「あれ?……あれれ?」
田舎道は楽である。
時間によっては人がほとんどいないので、歩道を悠々と走れる。
というか、車道ですら気兼なく走れる。
しかし、やはり人も何でも良いことばかりではない。
田舎にはコンビニが少ない。
都会を走ると、多いところでは10分か15分感覚くらいでコンビニが立っている。
多すぎる。というのが実に素直な感想ではあるのだが。
「コンビニがない……つうか見渡すかぎりに田んぼしかないんですけど。」
自転車は三時間も走ると腹がすき、10分もすれば喉が渇く。
鴨居は知らなかったが意外と過酷な乗り物だったようである。
鴨居は空になってしまったペットボトルを少しだけ恨めしそうに振った。
「飲み水エンプティー。なんなら腹もエンプティー……もしかして死ぬ?」
照りつける焼けるような日差しを浴びながら自転車を漕ぎ続けていると。
青々と麦の茂る道、沢山の虫達の鳴き声に鴨居の腹の虫の音がだらしなく交じっていった。